レビュー

小説『波の上のキネマ』(著:増山実)はどん底の生活から最後に幸せを掴むまでの話

波の上のキネマの感想とあらすじ

こんにちは。

今回は「波の上のキネマ」という本の感想について書きたいと思います。

普段あまり本を読まない私ですが、ふらっと立ち寄った本屋でたまたま見つけて衝動買いしたのがこの本です。

とても面白かったのであらすじ等もご紹介したいと思います。

ネタバレにならないようにストーリーの途中ぐらいまでしかあらすじは書けませんが、ご了承下さい。

『波の上のキネマ』を読んだ感想

自分の人生を振り返ると何度となく分岐点がありました。

その時に「どちらへ進むか?」を選んで進んできたのは自分自身であることに改めて気づかされます。

人生における分岐点での選択こそ「運命」と言えるでしょう。

人生には波のような浮き沈みがあります。

良い時があれば悪い時もあるでしょう。

しかし、最悪の環境に置かれても決してあきらめないことが大切だと思いました。

さらに環境への適応力が生きていく上で必要だとも思いました。

登場人物の俊英のように。

一見何の希望もなく淡々と過ぎていく人生のようでも、生きることを諦めてしまっては全てが終わりです。

絶望の中にもいつか一筋の希望の光が差す日がくるかもしれません。

俊英はジャングルキネマでたまたま放映された映画に映っていた少女の姿に一筋の光を見出しました。

そこから俊英の運命がまた大きく動き出します。

良い方向に動いたかのように思えて実はまたどん底に叩き落されます。

読んでいて「もうこの人(俊英)の人生は終わっちゃうんじゃないの?」

と何度も思いました。

しかし、そこからまた希望へとつながる出来事が起きます。

それは運命というより単なる偶然だったかもしれません。

大きくうねる運命に翻弄されながらも、頑張って生き抜いたからこそたどりつくことができた場所。

歴史の延長線上に今の自分がいる、ということを改めて思いました。

この本を読むと人生とはつくずく不思議なものだなぁと思いました。

俊英は何年も前にたった1度会っただけの女性の事を偶然思い出す。

そしてその女性と1度だけの手紙のやりとり。

このわずかな糸をお互いがたぐりよせたことで今、俊介がこの世にいるのです。

ただ心残りはキザ耳の行方です。

本の中では脱走したキザ耳がどうなったかはっきりとは書かれていません。

無事逃げ切れたのか?それとも・・・。

話の舞台となる1つは俊介が現在、映画館「波の上キネマ」を運営する尼ケ崎なので立花や神崎川、塚口、西宮、加島などの地名が出てきて私としては身近に感じられました。

文章は読みやすくスートーリー展開もわかりやすいのでサクサク読めるのも良かったです。

物語では西表島で炭坑夫として強制労働させられる日々が何年か続きますが、絶望的な生活の中でも懸命に毎日を生きる俊英の姿が印象的でした。

祖父が映画館を始めた理由を知ることがなければ、波の上キネマは尼ケ崎から消えていたでしょう。

最後まで読み終わった後は前向きで爽快な気分になりました。

長編小説ですが途中で飽きることなく、一気に読みたくなる物語です。

好きなセリフ

全体を通してとてもおもしろかったのですが、その中でも私の好きな言葉が2つあります。

ひとつは第18章「大いなる幻影」で志明が俊英に言った言葉です。

「道なき道にも必ず道はある。脱出不能に見えるジャングルにもな」

・絶望的な状況でも必ず解決策がある

・あきらめてはいけない

と言っているように私には聞こえます。

非常に勇気を与えられる言葉で私は好きです。

もうひとつは第19章「山猫」で俊英が自分に対して言った言葉です。

「運命は選び取るものだ。自分の手で掴むものなのだ。」

人は「運命」に流されるわけではなく、人生の分岐点に置いて自分で道を選び取るものなんだ、という俊英の思いに共感しました。

あらすじ

俊介は祖父俊英が尼ケ崎で始めた映画館「波の上キネマ」を閉めようと思っていた。

しかし、その前に

「なぜ祖父がここ尼崎で映画館を始めたのか?」

その理由を知る必要があると思う。

物語は祖父の話へ。

俊介の祖父、俊英は尼ケ崎の床屋で偶然一緒になった男に騙されて西表島の炭鉱夫になる。

”待遇も良く夢のような仕事”だと信じて尼ケ崎を出発し、3日間その船で夢を見る。

が、いよいよ船を降りると自分が仲介屋の男に騙されたことに気付く。

しかし、引き返す事もできない。

俊英は想像を絶する悪環境で炭鉱夫として働くしかなかった。

1日の大半を穴の中で暮らす生活。

過酷なノルマに加えてマラリアで死んでいく仲間も多い。

脱出を試みては連れ戻されて、折檻され死んでいくものも後をたたない。

ある日、ギザ耳と呼ばれる仲間が脱出を試みる。

しかし、ギザ耳が連れ戻されることはなかった。

上手く逃げ通せたのか?

それとも途中のジャングルで息絶えたのか?

脱出不可能と言われた西表島の炭鉱村からどうやって祖父は尼ケ崎へ帰ってくることができたのか?

そしてなぜ映画館を始めたのか?

その謎がゆっくりと解き明かされていく・・・。

作品紹介

 

タイトル;波の上のキネマ

著者  ;増山実(ますやまみのる) 2018年8月30日 第一刷発行

発行所 ;株式会社集英社

定価  ;1850円+税

タイトルにも使われている「キネマ」とはどういう意味なんでしょう?

調べてみたのですが、「映画」や「シネマ」を意味する言葉だそうです。

古くは活動写真とも言いました。

「シネマ」と「キネマ」は語源の違いはあるものの、意味は同じです。

特に戦前は「キネマ」と呼んだそうですので、この本のタイトルにも「キネマ」が使われたのでしょう。

最後に増山実さんの他の著書をご紹介しておきます。

『勇者たちへの伝言』(2013年デビュー作)

『空の走者たち』(2014年)

『風よ僕らに海の歌を』(2017年) など

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